なぜ今こそ責任追及が熊谷組に必要なのか?


櫻野社長の在任期間中において、熊谷組は以下の経営上の問題が発生しています。

·        事業運営上の問題

·        ガバナンス及び監督機能の問題

·        資本配分の問題

·        住友林業との戦略的提携の失策

業績の低迷

熊谷組の業績低迷は財務指標からも明らかですが、経営陣はその問題に効果的に対処できていません。同業他社が土木事業において平均10%の営業利益率を達成しているのに対し、熊谷組の土木事業の営業利益率はわずか2%にとどまっています。

熊谷組が設計変更交渉で価格転嫁をできていないこと、および同社の赤字案件の多さは、長年指摘され続けてきたことですが、現在の経営陣はこの状況を改善できていません。前期(2023年3月期)もまた、営業利益は115億円にとどまり、当初掲げていた計画目標に対して大幅な未達に終わりました。2017年に住友林業への第三者割当を行った際、2023年3月期に達成を約束していた500億円という目標値から程遠い結果と言わざるを得ません。熊谷組の株主資本利益率(以下、ROE)は5%を下回り、資本コストを大きく下回る4.7%にとどまり、今期もほとんど改善が見込めません。

直近の決算説明会にて、熊谷組はなんらかの対策を次期中期経営計画において公表できればとしました。なぜ、経営陣が一連の問題に対する具体策をすぐに打ち出せないのか、私たちは困惑しています。熊谷組はもっと早い段階から同社が抱える課題に取り組むべきだったのではないでしょうか。経営陣は本業の経営が疎かになっているようです。

ガバナンスおよび経営監督上の失敗

熊谷組の最近の北海道新幹線のトンネル工事の虚偽報告に係る不祥事は、経営陣のリスク管理および監督機能、さらに建設案件を効率的に管理するプロジェクト・マネジメント能力に対する懸念を強めるものでした。

この不祥事の根源的な原因は、建設技能労働者の不足および熊谷組の労働力管理能力の欠如です。しかし、工事技術者不足の問題は、同業界で長年指摘されている問題であり、本事案を引き起こさないように適切な経営管理を行わなくてはなりませんでした。

直近の決算説明会で、櫻野社長は住友林業とのシナジーが未だに具体化できていないことを認めています。実際に、熊谷組は協業に向けて開催されている住友林業との分科会が、当初の8つから6つに縮小されたことを認めました。資本提携から5年が経った今、数々の失敗や目標の先送りを繰り返してきた現在の経営体制では、今後、両社の協業が利益を生み出すようになるとは到底信じることができません。

しかし、シナジー効果は何ら発揮されていないにもかかわらず、熊谷組は住友林業の代表取締役である佐藤建氏を取締役に選任しつづけています。

非効率的な資本配分

熊谷組はあらゆる点で資本効率の低い経営を行っています。まず、この5年間、熊谷組は積極的な投資計画を公表したものの、そもそも計画通りに全く実施していません。おまけに、実行された投資は、収益性や将来の事業拡大の両方の観点からみて失敗しています。株主還元策についても、昨今日本企業の多くがが大きく前進する中で、熊谷組は後退しているようにすら見受けられます。

株主にとっては幸いなことに、熊谷組は2017年に計画していた600億円の投資計画について、現時点で半分以下しか投資に回していません。一方で、株主にとって残念なことに、投資された280億円については、大部分が非常に投資効率上、杜撰な投資になっています。

熊谷組は、オアシスの株主提案に対する回答で、社外取締役や第三者の外部専門家が投資の検証を行ったと主張しています。もし本当ならば、同社は直ぐに社外取締役と第三者機関のアドバイザーを一新すべきです。熊谷組はこれまで95億円を不動産投資に費やしていますが、おかしなことにレバレッジを全く活用せず、すべての不動産取得を現金で行っています。資本コストや不動産投資について、熊谷組は皆目見当もつかない状況であることは明らかです。我々は、レバレッジを使わずに投資収益を上げている不動産投資家に過去出会ったことがありません。したがって、熊谷組は効果的な投資を実行する能力を有していないと言わざるを得ません。更に、熊谷組が投資をする飯田橋地区の再開発は大幅に遅れており、その実行は熊谷組が想定しているよりもはるかに長期化する可能性が指摘されており、本投資に関しても懸念を抱かずにはいられません。

熊谷組の再生可能エネルギーへの投資実績も芳しくありません。熊谷組は当初、90億円を再生可能エネルギーに投資する予定でしたが、直近5年間で、静岡県の太陽光発電所に2億円、バイオマス発電所に2億円、ベトナムの太陽光発電所の30%持分に10億円しか、投資実行に至っていません。しかも、レバレッジは一切活用されていません。これらの投資は経営資源や資金の無駄遣いであり、将来的にステークホルダーに実質的な利益をもたらすことは想像し難い状況です。

熊谷組の大規模投資の一つに、住友林業が保有する米国不動産ファンドに対する30億円の投資がありますが、本投資に関して熊谷組から住友林業へは運用報酬が支払われていると想像されます。熊谷組は米国で事業を行っておらず、ファンドの投資先の建設に実質的に関与する予定はないため、当該投資は熊谷組の本業や将来の事業成長にとってメリットはないものと思われます。

熊谷組の株主還元策も非常にお粗末と言わざるを得ません。皮肉なことに、熊谷組は業績不振をテコに、株主還元に注力しているかのようなフリをしています。株主提案に対し経営陣は、直近年度の配当性向72%は適切な水準であると回答しています。しかし、配当性向が高いのは、同社の本業の業績不振と投資の失敗が主因に過ぎません。簿価よりも大幅に割安な株価で取引されているにもかかわらず、熊谷組は過去2年間にわたって年間40億円実施していた自社株買いを、本年は20億円まで半減させています。

資本業務提携の見直し

熊谷組は、当時十分な資金力を有していたにもかかわらず、2017年の住友林業との資本業務提携締結の際に第三者割当増資を実施し、株主を25.54%希薄化させました。しかし、最近の決算説明会で櫻野社長が認めたように、シナジー効果は生まれていません。 資本提携がここまで大失敗に終わった理由は不明ですが、現状の体制が機能していらず、熊谷組の中核事業の立て直しに注力すべき経営資源を、建設外事業に経営の注力が散漫になっていることは明らかです。

熊谷組は、中期経営計画で発表していた通り資本提携を活用して木造建築の市場リーダーになることを掲げていました。 しかし、その実績は特に目を引くものではなく、竹中工務店や前田建設工業には遠く及びません。

さらに懸念されるのは、住友林業が、木造建築の建設分野において、前田建設工業や鹿島建設とJVを設立して木造建築に取り組むなど、熊谷組以外の他の建設会社に依存していることです。 一連の資本提携の結果として、住友林業が熊谷組を優先的に起用することはなかったようです。

同様の状況が、シナジー効果が期待されていたもう一つの重要な分野である再生可能エネルギー開発にも現れています。 資本提携以降、住友林業はレノバ(2件)、長谷工コーポレーション(1件)を施工業者に選定していますが、熊谷組との共同再生可能エネルギー事業はま未だ実施されていません。

熊谷組はこの資本提携に、台湾、ミャンマー、ベトナムといった海外事業からにおけるシナジー効果も期待していました。インドネシアでの一つの共同プロジェクトを除くと、海外で協業している事業はほとんど存在していません。熊谷組はタイとベトナムにおいて住友林業のプロジェクトに技術支援を行っていますが、これは熊谷組にとって実質的な利益にはなっていません。

今回の資本提携では、研究開発による大きなシナジー効果をも生み出していません。熊谷組は、木質材料の研究開発のみを行っているようで、住友林業との共同研究は48件の研究開発のうちわずか2件のみにとどまります。

熊谷組と住友林業のシナジー効果の欠如は顕著であるにもかかわらず、住友林業出身者を代表取締役を取締役会に迎え入れていることには非常に理解に苦しみます。資本提携は、現在の形では熊谷組やその関連会社に利益をもたらすようには機能しておらず、抜本的な見直しが必須です。

オアシスは資本提携の戦略的見直しを要求します。熊谷組が住友林業から株式を買い戻すことによって資本提携を解消するか、熊谷組が住友林業の完全子会社となり、住友林業のリソースのすべてを真に享受できるようにするかのいずれかを選択すべきでしょう。現在の資本提携による関係性では、明らかに機能していません。